IT業界の多重下請け構造はこうして生まれた!

請負構造

こんにちは!中の人「1号」です!

今回は、IT業界における長年の懸案として認識されている「多重下請け構造」について考えていきます。情報労連の「ゆるキャラ」である「結ちゃん」と「委員長」が解説します。

そもそも多重下請け構造とは?

結ちゃん
情報サービス業の特徴として、しばしば「多重下請構造」が取り上げられますよね。そもそも多重下請構造ってなんですか?
委員長

例えば、A社があるソフトウェア開発をB社に発注したとしますよね。このとき、B社がA社からの受託(工程)の一部をC社、またはC社を含めた複数の会社に発注します。さらにC社はから受託(工程)の一部をD社、またはD社を含めた複数の会社に発注します。さらにD社は(以下、繰り返し)……。このような事例は情報サービス産業ではよく見られますね。

この事例のようにある製品を発注者に納品するのに、多くの会社の受発注が介在し、多層化している構造を一般的に多重下請構造と呼んでいます。

多重下請構造は、情報サービス業以外では建設業にも見られ、もともとは建設業において落差の激しい繁忙・閑散期の対応として戦後以降に定着したものといわれています。

下請け企業ほど賃金が低くなる傾向

結ちゃん
情報サービス業における多重下請構の特徴をもっと詳しく教えてください。
委員長

多重下請構造はピラミッドに例えることができます。先ほどの事例でいえば、A社(ユーザー企業、発注会社と呼ばれます)から最初にソフトウェア開発を受託したB社(元請と呼ばれます)が情報サービス業におけるピラミッドの頂点です。

B社からC社(1次下請と呼ばれます)を含めた複数の会社へ、さらにC社からD社(2次下請と呼ばれます)を含めた複数の会社に仕事を発注していくにしたがい、介在する会社が増えていき、ピラミッド構造ができ上がります。

B社のようなにピラミッドの上部の会社はユーザー企業により近いことから、システムを構築する際に、ユーザー企業の業務を把握・分析し、ユーザー企業の課題を解決するようなシステムの企画、構築、運用サポートを中心に業務を行っています。そこからさらに工程を受託する会社はプログラム設計やプログラミングがより業務の中心となってきます。

また、ピラミッドの下方にいくしたがって、介在する会社規模は小さくなり、そこで働く労働者の賃金も低くなる傾向にあることが指摘されています。

多重下請構造はこうして形成された

結ちゃん

では、なぜ情報サービス業に多重下請構造が見られるようになったんですか?

委員長

1990年代以降のユーザー企業のIT投資の主たる目的は、現行業務の情報化による業務効率であり、フルオーダーメイドの受託開発がシステム開発の中心でした。これによりシステムのブラックボックス化とベンダロックイン1が発生し、人月2換算とソースコードの行数換算で取引価格が形成された結果、技術力が軽視され研究開発が停滞しました。このため、ベンダー企業では労働集約型ビジネスを支える目的で、2000年までに現在見られるような多重下請構造が形成されたと言われています。

多重下請け構造のメリットとデメリット

結ちゃん

多重下請構造のメリットとデメリットは何でしょうか?

委員長

はじめにメリットです。多重下請構造は一つの「発注」を多くの会社でシェアをする仕組みともいえます。労働集約型ビジネスが主流を占める産業では、多くの労働者に仕事を供給する必要があり、多重下請構造がその役割を果たしています。

しかし、このメリットは別の見方をすればデメリットに直結する裏返しの課題でもあります。

会社が他社へ受託(工程)の一部発注する場合は、当然ですが、自社が請けた金額よりも安い金額で下請けに発注することになります。従って多重下請構造のもとで受発注を繰り返すごとに利益が削られることになり、結果として2次よりは3次、3次よりは4次というように高次の下請会社ほど労働者への賃金も低くなっていきます。

成果に基づく取り引きの適正化を

結ちゃん

情報サービス業を魅力あるものしていくためにはどうすればよいでしょうか。

委員長

どの産業においても超少子高齢化の影響もあり、人手不足の状況になっていますが、とりわけ情報サービス業は人材不足が深刻な状況です。その要因の一つとして、賃金の低さや労働時間の長さが影響しているとの指摘もあります。

賃金の低さと多重下請構造には相関関係がありますので、多重下請構造をなくすことは低賃金を脱却する一つの手立てだと思いますが、実現には時間が必要ですし、現実的にはかなり難しいと思われます。

まずは多重下請構造に介在する会社の役割の明確化による構造の適正化と開発したソフトウェア(成果物)の価値に基づく取り引きを適正に行っていくことがとても重要です。

※1:特定ベンダー(メーカー)の独自技術に大きく依存した製品、サービス、システム等を採用した際に、他ベンダーの提供する同種の製品、サービス、システム等への乗り換えが困難になる現象のこと。

※2: 1人が1か月で行うことのできる作業量のこと。またはその単位。人月換算(人月工数)で見積もられた価格とそのものの価値が合致しないことや受託側における効率化や生産性向上のインセンティブが働かないなどの課題が指摘されている。