下請法、知っていますか?

情報サービス

 「発注書が来ないのに、作業に先行着手しろと言われる」「契約後に要件変更があったのに、追加費用を認めてくれない」「契約金額を指値で一方的に決められる」…。IT業界ではよく聞く話ですが、下請法違反となる可能性があること、知っていますか。知らずに違法行為を行ってしまうことがないように、また、違法行為をしてくる企業から自分の身を守れるように、下請法について知識を深めておくことが重要です。

情報サービス産業は下請法違反が多い産業!?

公正取引委員会の発表資料によれば、下請法違反事件の措置件数が多いのは、「製造業」を筆頭に、「卸売業」、「運輸業、郵便業」、そして「情報サービス業」が含まれる「情報通信業」となっています。情報通信業の割合は1割程度となっていますが、措置件数の多さでは、4番目の産業になってしまっています。

そもそも下請法って?

 業者同士の取引を行う際、下請企業はどうしても不利な立場になりがちですが、下請企業を保護するために、「下請法」という法律があります。下請法の対象は、親事業者と下請事業者の資本金の額と取引の種類によって決まります。(詳細は、中小企業庁の「ポイント解説 下請法」を見ていただければと思います。)


資料:「下請等中小企業の取引条件改善への取組について」(中小企業庁)2017年7月

そして、下請法では、下請企業を保護するため、親事業者に対して「4つの義務」と「11の禁止行為」を定めています。

親事業者の義務

発注書面の交付義務 委託後、直ちに、給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法等の事項を記載した書面を交付する義務。
発注書面の作成、保存義務 委託後、給付、給付の受領(役務の提供の実施)、下請代金の支払等について記載した書類等を作成し、保存する義務。
下請代金の支払期日を定める義務 下請代金の支払期日について、給付を受領した日(役務の提供を受けた日)から60日以内で、かつ出来る限り短い期間内に定める義務。
遅延利息の支払義務 支払期日までに支払わなかった場合は、給付を受領した日(役務の提供を受け  た日)の60日後から、支払を行った日までの日数に、年率14.6%を乗じた金額を「遅延利息」として支払う義務。

親事業者の禁止行為

受領拒否の禁止 下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付の受領を拒むこと。
下請代金の支払遅延の禁止 支払代金を、支払期日までに支払わないこと。
下請代金の減額の禁止 下請事業者に責任がないにもかかわらず、下請代金の額を減ずること。
返品の禁止 下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
買いたたきの禁止 通常支払われる対価に比べ著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
物の購入強制・役務の利用強制の禁止 自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
報復措置の禁止 中小企業庁又は公正取引委員会に対し、禁止行為を行ったことを知らせたとして、取引を停止するなど不利益な取扱いをすること。
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 有償支給原材料等を自己から購入させた場合、支払期日より早い時期に支払わせること。
割引困難な手形の交付の禁止 支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付すること。
不当な経済上の利益の提供要請の禁止 自己のために、金銭、役務などの経済上の利益を提供させること。
不当なやり直し等の禁止 下請事業者に責任がないにもかかわらず、給付の内容を変更させたり、給付をやり直させること。

 見ていただくと、「あれ?あの案件って該当するんじゃ・・・」と思われるようなケースもあるかと思います。発注書なしの作業開始や、契約後に要件追加を行ったのに追加費用を認めない、といった行為は、法律違反になる可能性があるのです。

情報サービス企業はこんなことに気をつけて!

2017年3月に、経済産業省からの委託事業で、「情報サービス・ソフトウェア産業における下請取引等に関する実態調査」の報告書が発表されました。この調査では、情報サービス・ソフトウェア企業や有識者(弁護士)に対するヒアリングを行っており、下請法が適切に遵守されていない可能性が高いケース等が示されています。情報サービス産業で起きている事例を、報告書からご紹介しましょう。

契約書を交わしてないまま作業をしてしまう・・・

 下請法では、親事業者に対し、発注の際に、直ちに下請事業者に書面を交付する義務を課していますが、「発注書が来る前に、すでにお客様と作業を始めてしまっている」なんていうことを経験されたITエンジニアの方もいらっしゃるかと思います。

報告書の中でも、以前よりは改善されているという声もある一方、最長では業務開始後4~5か月発注書が届かなかった、という事例が紹介されています。

「新しい担当部署と取引を始める場合、社内的にも追加の手続きが発生したりするので、発注書面が遅れることは実際にある。」

仕事が始まった後に発注書が来ることは多い。例えば、半年で数千万円の見積を提出するが、その価格で合意できない状態のまま業務が始まると、まずは半年で 100 万円程度の少額の注文書が届く。その後、4 か月目に数千万円の価格が決まった場合に、残りの 3 か月で数千万円の業務を実施するための見積を出し直さなくてはならない。納期が短くなったことでアサインする要員も変わってしまい、見積書の作成が難しいこともある。最長では、業務開始後、4~5 か月、発注書が届かなかったこともある。」

親事業者から一方的に指値を決められる

 どのような案件であれ、価格交渉はあるかと思いますが、親事業者が不当に買いたたく、あるいは、合理的な理由もなく下請企業に赤字を転嫁する、ということは適正取引とはいえませんが、報告書では、元請企業が見積に失敗した結果、ユーザー企業から適正な金額をもらえず、下請企業が赤字をかぶるケースが紹介されています。

「基本的には、発注側からいくらと言われ、それに合わせた見積を出すしかない。大きな利益が出ることはあまりない。元請企業が見積に失敗して、ユーザー企業から適切な費用をもらえていない場合などは、二次請けであるこちらも赤字になることがある。しかし、今後も見据えた取引の継続性を考えると、今後、他の案件でどのように取り返していくかを考えるしかない。仕事がなくなってしまう期間があると、経営上のリスクが生じるため、ずっと継続的に発注されていれば、まだ我慢できる面はある。」

 また、下請企業が企業努力で業務効率化をした結果、請負契約の金額が下がってしまう、というケースもあります。こちらも、うなずかれる方も多いのではないでしょうか。

「ある仕事を10時間で遂行したら100万円もらえる場合に、8時間で終わっても100万円もらえるのが、本来の「生産性の向上」である。しかし業務が効率的に早く終わるようになると、慣れてきたからもう少し安くできるのではないかという話になり、その次の請負契約の額が下がる大手は外注を抱え込み、似たような作業を同じところにやらせて慣れさせる。それに対して「生産性が上がった」のだから、金額が下がるはずだという話にもっていく。下請企業の努力で、ノウハウや技術力が向上し、業務が早くなった場合も、価格を下げず、そのままにしていただければ、セキュリティなどの取り組みに費用を回すことができる。」

作業内容変更後の再見積の拒否

 作業内容の変更が契約途中で判明したのに、追加費用を請求できなかったケースも紹介されています。

「3年ほど前に、億円単位の指値で受注して、その受注額の半額程度の損失を出した案件がある。途中でコストが膨れているのがわかったが、元請企業がエンドユーザーに対してお金を要求できないため、下請企業にも支払えないという状況も理解できた。元請企業も二次請である当社も、ともに損失を被った。」

発注後の下請代金の減額等

 担当者との間で決めた見積金額を購買部門が無理やり下げてくる、あるいは、発注後に契約金額変更を押し付けてくる、という事例もあります。

「ユーザー企業との価格交渉で購買部門が出てくることがある。SE と話して見積を決め、その見積を購買部門に出して、購買部門から発注書が届く際に、無理やり価格を下げてくることがある。その他、支払いの時に突然価格を下げてくることもある。これは、下請法違反ではないか。今期の業績が悪いからなどの理由で、支払の時点で金額を下げるのは、向こうの都合以外の何物でもない」

下請法を守らないと…

 みなさんも見聞きしたことのある事例も多かったのではないでしょうか。上記で紹介したのは、いずれも下請法違反の可能性がある事例です。下請業者からの申し立てや公正取引委員会が毎年行っている調査により、下請法の違反の疑いがある場合には、親事業者に対する個別調査・検査の実施がされます。その結果、違反とみなされた場合には、改善を求める勧告後、親事業者を公表されます。公表により、企業の評判が低下することもありますし、今後の取引に影響が出ることもあるでしょう。また、50万円以下の罰金が科されるケースもあります。

 知らず知らずのうちに違法行為を常態化させてしまったり、本来は違法な下請けいじめを放置して労働者にしわ寄せがいく、なんてことが起こらぬよう、下請法についての周知徹底が必要です。また、同時に、下請法適用対象の取引かどうか、適法か違法かに関わらず、そもそも、適正な取引で仕事を進められる風土を産業全体で作っていく視点が重要だと思います。