SES契約とは?客先常駐で働くITエンジニアの契約について

法律

平成27年の労働者派遣法の改正により、経過措置が終了した平成30年9月30日以降は、特定労働者派遣事業として労働者を企業へ派遣していた企業は、新たに許可を受けないと派遣事業が行えなくなりました。

特定派遣は、専門性の高い26業務を対象とし、派遣元に原則1年以上雇用されている労働者(常用雇用者)を派遣する制度で、ソフトウェア開発もそのうちの1つとなっていました。特定派遣は事業者が届け出をすれば派遣が可能だったため、法改正を契機に派遣事業から撤退する企業や、取引ベンダの見直しや内製化を図る企業も在る一方、形式上の契約は準委任契約や請負契約としつつ指揮命令はユーザが直接行う、いわゆる「偽装請負」の増加が懸念されます。

特にSES契約は、成果物を完成したことの対価として報酬をもらう「請負契約」と異なり、決められた時間内で自分の専門的知見に基づく労働力の提供を約束する準委任契約である為、指示に基づいて作業を行う「派遣契約」同じように直接業務指示をしてしまうユーザ企業も少なくありません。

SES契約とは?

SES(システムエンジニアリングサービス)契約とはソフトウェアやシステムの開発・保守・運用における委託契約の一種であり、特定の業務に対して技術者の労働を提供する契約です。

IT業界における委託契約には、一般的に「請負契約」と「準委任契約」があり、SES契約はシステムエンジニアの能力を契約の対象とし、客先のオフィスにエンジニアを派遣して(常駐)、技術的なサービスを提供することから「準委任契約」に該当します。

・請負契約 :ユーザから依頼されたシステムの完成を約束し納品する。ユーザは納品物への対価を支払う。

・準委任契約:技術者の労働を提供する。ユーザは技術者の労働へ対価を支払う。

再委託の可否や解除の扱い等の差はありますが、いずれの契約も、ベンダ側に仕事上の「裁量」が認められており、ユーザからの指揮命令には拘束されない点は共通しています。

派遣契約と請負(準委任)契約の違い

労働者派遣契約は、派遣元企業が雇用する従業員をユーザ企業へ派遣し、その従業員はユーザの指揮命令のもとに働く契約です。

派遣契約と請負(準委任)契約の違いは主に「①派遣契約労働者はユーザ企業からの直接指揮命令を受けるか」と「②ユーザから独立して業務処理を行うか」という点で異なります。特に働く側から見た場合には①が大きく変わってきます。

なお、 A社がB社と派遣契約を結びつつ、B社がさらにC社と派遣契約を結びC社社員をA社に派遣し、A社の指揮命令下でC社社員が業務することを二重派遣(多重派遣)と言います。

労働者に対する責任の所在が不明となること、また労働搾取につながることから 二重派遣は禁止されています。

偽装請負とは?

前述のとおり、労働者派遣事業行う為には法令に基づき、労働者派遣事業の許可が必要となりますが、要件に対応できる企業ばかりではありません。結果、派遣契約ではなく請負(準委任)契約として業務を受注するものの、ユーザが業務遂行に関して具体的に指示を行ったり、休憩や残業の指示を時々にユーザが行うと、「実態としては請負ではない(=偽装請負)」と判断され、ベンダもユーザも行政処分の対象となり得ます。

A社とB社が派遣契約ではなく請負(準委託)契約を結び、B社がC社と派遣契約を結んだ場合、A社(客先)でB社の指揮命令下でC社社員が働くことは、違反にはなりません。この場合、C社社員はB社管理者を通さずA社より業務遂行上の指示を受けたり、労務管理に関する指示を受けると「偽装請負」と見なされます。

A社とB社、B社とC社がそれぞれ請負(準委託)契約を締結していた場合、それ自体は違法ではないものの、C社社員はA社からもB社からも直接的に業務遂行上の指示を受けることができません。実態としてA社ないしB社から指示があれば、やはり「偽装請負」と見なされます。

実際、「自分はC社社員でA社に常駐しています。間に数社はさんでいるようだけどA社社員から業務指示を受けて・・」という話を伺いますが、そのような会社は偽装請負として行政処分の対象となります。

働く側にとっての問題は?

形式と実態の乖離は、ベンダ企業とユーザ企業それぞれの責任が曖昧になり、労働者の基本的な労働条件が十分に確保されないという事が起こりがちです。とりわけ、客先に1人で常駐するなど、現場に本来労務管理を行うべき責任者がいない場合(上記の例ではB-C間の請負(準委任)契約により派遣されたC社社員を管理するべき「C社の責任者」がA社客先にいない場合等)業務のボリュームや進行状況による労働時間はユーザや元請(この場合A社もしくはB社)に委ねられてしまう事が多く、彼らが委託先社員(この場合C社社員)の労働安全措置を講ずる必要はないものとして業務を依頼し、その結果長時間労働が発生しても、現場にいるA社(B社)は管理する(責任を負う)立場にないため、労働者の安全が脅かされてしまいます。

自分は一体何契約?

そもそも「自分はSES契約と言われていますが、実際どのような契約に基づいて客先常駐しているのかわからない。」という声も聴きます。

複数社が間に入っている場合は、「雇用関係にある会社の社員」、もしくは「雇用関係にある会社と直接派遣契約を締結している会社の社員」)からの業務指示以外は法律違反を疑ってみましょう。その場合ユーザからの業務指示も同様です。

労働時間も長くなく、環境も問題が無ければあまり気にならないかもしれません。裏を返せば、適切な対応が行われていない職場では労働災害が発生するリスクも高くなり、適切に管理された職場ではそのリスクは低減します。健康や安全は損なってからでは取り返しがつきません。

契約は業務の仕方や責任の所在に大きくかかわる部分です。「おかしいな」と思ったら管理者や労働組合、外部機関に相談してみましょう。