「罰則付き時間外労働の上限規制」でITエンジニアの長時間労働は是正されるのか? その3(最終回)「36協定締結に向けた留意点」

労働時間

36協定締結の際、時間外労働の上限時間をどのように決めたら良いでしょうか?

 まずは36協定を何のために締結するか、つまり何のために時間外労働の上限を定めるか、という基本に立ち返りましょう。

 それは単に時間外労働をさせない、ということではなく、働く者の命と健康を守り、過労死という悲惨な事態を職場から一掃するためです。ですから、「最悪」でも過労死ラインの時間数は避けなければなりません。

特別条項の時間外労働時間に上限がついたとはいえ、その上限時間で協定を結べば、発症前2~6ヵ月の過労死ラインである80時間外労働が6ヵ月連続で可能となってしまいます。

したがって特別条項の時間外労働の上限は、過労死ラインの時間数を確実に避けるため、単月でも80時間未満にすべきと考えます。

法定休日を含めると、一年を通じて毎月80時間(年間最大960時間)まで時間外労働可能ですが、ここへの対策はありますか?

 限度時間を特別条項と同様に法定休日で働いた時間を含んだ時間として見なし、36協定を締結することで対応が可能です。

 例えば1ヵ月の時間外労働時間を限度時間と同様の45時間とした場合、この時間に「法定休日の労働時間が含まれる」とするわけですから、法定休日ができる日数はゼロとなります。逆に、法定休日に労働ができる日数を例えば2日とした場合は、1ヵ月の時間外労働時間数から法定休日労働の2日分の時間をマイナスして締結することになります。

このように、法定休日に働いた時間がカウントされることにより、過労死ラインの時間を確実に避けるだけでなく、「休日を含む・含まない」といった時間外労働の二重管理の必要もなくなるメリットもあります。

それでも、特別条項の上限を単月80時間未満での締結というのはハードルが高いように思えますが・・・。

過労死が万が一発生したら、会社はどうなるでしょう。社会的信頼の失墜、場合によっては過労死された方のご家族との裁判闘争へ発展する可能性をも考えなければなりません。死亡にいたらなくても、長時間労働で健康を害して働くことができなくなれば、健康を害した本人だけでなく、会社にも大きな損失となります。

改正労働基準法で示された上限時間80時間での36協定締結では、協定内の時間外労働時間であったとしても、過労死認定されるリスクは高いことは先述したとおりです。会社の立場で言えば、このリスクをいかに抑えるかという観点からも、時間外労働が休日を含めて80時間未満での締結は認識が合うのではないでしょうか。

まとめ: 「罰則付き時間外労働の上限規制」でITエンジニアの長時間労働は是正されるのか?」

 結論として、今回の法改正によって長時間労働是正の気運は高まるが、法内容を単純に守っているだけでは是正されないと考えます。

理由はこれまでの繰り返しになりますが、法改正で認められている時間外上限で36協定を締結した場合、最大で960時間もの時間外労働をすることが可能であり、過労死のリスクも高いから、です。

本来仕事が所定内労働時間で終わることは、労働者はもちろん、会社にとっても時間外労働への対価として高い割増賃金を払う必要もないわけですから、喜ばしいことのはずです。また、人手不足といわれる昨今ですが、良い職場環境にはおのずと優秀な人材も集まりますし、離職防止にもつながると考えます。

 今回の法改正を機に、36協定の締結内容のさらなる充実や長時間労働是正に向けた具体的な取り組みなどについて、会社と働く人がともに真正面から向き合うことが重要です。