日本のITに物申す・比較できる立場にいる外国人から【3/15・イベントレポート】

イベントレポート

日本のITを考える

 ITエンジニアを取り巻くさまざまな課題を考えたとき、みなさんも一度は思ったことがあるはずです。「他の国ではどうなんだろう?」「どこをどうすれば、もっとやりがいをもって働けるようになるのか」 。
 そんな“もやもや”をグローバルな視点を持つパネリストにぶつけて、一緒に考えようという対話イベントが都内・メルカリ本社で3月15日に開催されました。題して「日本のITに物申す・比較できる立場にいる外国人から」。パネリストは海外をバックグラウンドに持つ4名の方です。

登壇者の4名

参加型!”AMA形式“で進めます

イベントは、「“AMA(えーえむえー)”って知っていますか?」という会場への投げかけから始まりました。私自身は、お恥ずかしながら知らなかったのですが、「”Ask Me Anything(なんでも聞いて!)”」の略とのこと。参加者からの質問や問いかけでイベントが進行していきます。 どんな疑問が出て、それについてどう話し合ったのか、一部をご紹介します。

SIerとの関係、年功序列、開発者が十分重視されていない…それぞれの視点から

導入として、4人のパネリストが、それぞれの視点から見た日本のIT業界の課題について、コメントしました。

●ロッシェルさん

日本は、レガシーシステムが非常に多いと思います。だいぶ前のシステムをずっと使い続け、メンテナンスに人材を取られている、という課題があります。思い切ってIT投資をして、新しいものを生み出していった方がいいのではないでしょうか。投資をすればより速くトランスフォーメーションすることができ、競争力強化にもつながります。

 また、人事関連の面からみれば、日本ではソフトウェア開発人材が十分に大事にされていないように見えます。それに伴って、日本のソフトウェア開発者の給料は非常に低いように感じます。

●ダニエルさん

SaaSサービスの導入率が低いと思います。“Not invented hereシンドローム(独自技術症候群)”という言葉もありますが、日本企業には昔から自分たちで作りこむ文化があり、社内で組み込んで作ったものを保守しています。それが本業じゃないのに、システムメンテナンスをしなくてはならない、というのは効率を悪くしている原因の一つ。今となっては、クラウドサービスが普及してきているので、SaaSサービスを活用し、自分たちで作らないようにする、というのがポイントだと思います。

また、SIerとの関係についても課題だと思います。米国のTech企業では、エンジニアが社内にいるのが当たり前ですが、給料も高く、貴重なリソースなので、企業からすれば無駄にはしたくない。自分たちのビジネスにコアなところだけをしてもらって、あとはSaaSとか、クラウドに任せる、というスタイルですが、日本のようにSIerが入ると、自分たちでいじれず、できたシステムの保守代を払って、変更したいときに数百万円払う、という構図から逃げられないんだと思います。

●マイクさん

ウォーターフォールだと、エンジニアからのフィードバックがない状況で開発することになるので、課題だと思います。ゲーム会社やハードウェアの開発には合ってるかもしれないけれど、IT業界にはアジャイル、スクラム、XP(eXtreme Programming)がマッチすると思います

あとは英語力。世界中の開発基準や新しい情報は、すべて英語で入ってくるんです。情報は、自ら努力をして、外の世界に取りに行かなくてはなりません。英語力を高めれば、解決するのではないかと思います。

また、シリコンバレーと比較してエンジニアの地位が低いという点ですが、これは、仕事の範囲自体が違うからだと思います。シリコンバレーのエンジニアは、自分がこういう風に作りたい、という欲望を持って開発します。日本も、競争力強化のためには、意識の高いエンジニアを多く生み出し、その人たちの能力をうまく活かせる組織を作らないとダメだと思います。日本の組織は意志決定が遅いのではと思います。責任を移譲して、より小さい組織で責任を持って組織をまわせるようにしていくのがシリコンバレーの主流になっています。

●カニさん

日本では、ウォーターフォールが主流で使われています。絶対だめ、ということではないですが、スピードもって競合と戦うためにも、アジャイルをものにしないと、危ないと思います。

また、コミュニケーション力は、コーディングスキル以外でエンジニアにとって一番大事なスキルだと思います。チームのコミュニケーション、コードを介してのコミュニケーション、新しいバリューを提供するコミュニケーション。これらがあるからエンジニアとして成長でき、プロダクトや企業に対しても影響を与えられます。

英語力も大事です。日本のマーケットだけでものづくりする、というのでは、機会が限定的になってしまいます。新しい技術はすべて英語で出てきますが、それを翻訳していては日本のソフトウェア産業にタイムラグが発生してしまうと思います。

あとはダイバース(多様性のある)チーム。女性、男性、年齢の差、外国人もしかり。ダイバースがあってこそ、いいプロダクトが生まれます。海外、アジア向けにサービス展開する機会が増える中で、ダイバースのあるチームで作らないと、世界で戦えないと思います。

1.海外の方がいいはずなのに、なぜ日本で働いてるんですか?

●カニさん

冗談抜きで日本が大好きです。ロボットの勉強がしたくて、日本の大学を選んだのですが、当時は、日米のどちらがリードしているかわからないような状況でした。アシモなんてものは、他の国では作ってなかった。その大好きな日本が、テクノロジーで、ソフトウェアエンジニアリングの世界で遅れてしまっている。シリコンバレーのソフトウェアの書き方、作り方には、メリットがあると思っています。それを日本でシェアできれば、ということで来ました。

●ダニエルさん

セガドリームキャストって知ってますか?僕は日本の職人気質が好きなんです。シェンムーっていうゲームがあるんですが、セガサターンで作ってたのに、作るのに時間がかかってるうちにセガサターンが終わり、ドリームキャストになって、それでも作り直しをして、という作品なんです。その職人文化がすごく響いて、これだけモノづくりに対して思いが強い国はすごくいいと思って来ました。

ソフトウェアでいうと、職人文化が足を引っ張ることになるのではないか、とも思います。ウォーターフォールでは、完璧に安全に作りこむ、ということはできると思いますが、一方では、競合はもっと早く動いてしまっている、ということもあります。「スピード感」と「職人文化」のいいバランス見つけないと、ソフトウェアではなかなか難しいと思います。

●マイクさん

シリコンバレーにも良さはありますが、弱点もあります。エンジニアの競争率が高くて、強い人が勝ち抜く世界。カフェでは、「自分はいくらもらった」っていう自慢をしている人もいたりして、そういうところに住みたくないと思いました。スタートアップは好きですが、シリコンバレーではやりたくないとも思いました。シリコンバレーで身に着けた力を日本でどう発揮していくか、という気持ちで日本に来ています。

2.日本のITはなぜこうなった?

●ロッシェルさん

独特な要素として大きいのは、日本の労働市場だと思います。終身雇用の慣習がまだかなり存在していて、結果、経済の中で人材が上手に生かされていないと感じています。企業に入るとずっと同じ企業に勤めるので、合わない企業でも転職しにくいですし、同じ企業の中で点々と人事異動するので、専門性が身につかない。世の中はますます複雑になってきていて、深い専門性を求められるものが多い中、職務を点々としている人は、対応しにくい状況ではないでしょうか。

また、人材の流動性がないと、経済としての柔軟性がなくなり、成長している中小企業に人がこない、ニーズがあるところに人が集まらない、という状況を生み出します。日本は自然資源が少ない。日本の最大資源は優秀で勤勉な、教育レベルの高い労働力です。非常に貴重な存在なのに、無駄遣いされていて、非常に残念に思います。

●カニさん

日本がシリコンバレーになる、という道もあったはずです。例えば、IBMは70年代からすでに機械からソフトウェアに事業の方向転換をしています。この会社をリードしていくのはソフトウェアなんだ、という意識があって、大きなベット(賭け)をしたと思っています。

日本はハードウェアが上手すぎて、ものづくりスピリットが深すぎて、ソフトウェアについてあまり重視してこなかったのでは、と思います。ソフトウェアを中心に置かなかった、ということが機会の損失になったと思います。

3.日本のITを変えていくためにやらなくてはならないことは?

●カニさん

AIもブロックチェーンもブームになってますが、「AIを使って何かやろう」ということではなく、「どういった問題を解決すべきか」という方向から考えた方が、みんなが使いたいものや本当に必要なものが作れるのではないか、と思います。

とある会社の例ですが、その会社では、配達ルートの設計を社員3人で何十年もやっています。そこの社長に、「このルートをデータ解析して効率化できたら、システム買い換える」と言われたんですが、「たぶんできないだろう」とも言われました。僕もできないと思います。彼らの長年の知識によって、すでにとても効率よくやっているんですから。

日本は、マニュアルにプロセスを書けば、みんながそれに沿ってきれいにやります。アメリカでは、100人が100通りのやり方をしてしまうので、「じゃあテクノロジーをつかって、もっとパフォーマンスよくしよう」という方向になります。日本は、人手を使っていても効率化されているから、「やらなくてもいいのでは?」と思うこともあります。 なので、日本にはGAFAみたいなものが生まれない、ということではなく、生まれてきているところにはニーズがあったのでは、と思っています。

4.日本のエンジニアの待遇が低いのは、何が原因か?

●ロッシェルさん

シリコンバレーでは人材の流動性があるので、今より給料が高い企業に移ることができます。企業側にも、いい人材を確保するためには、前の企業以上の待遇をしなければ、というプレッシャーがあります。特に、エンジニアの数が限定的なら、需要と供給の関係で市場価値はあがります。シリコンバレーの企業が気付いているのは、ビジネスに一番重要なのは、有能な開発者、ということなんです。有能な技術者がビジネスで成功を決める要素なので、優秀な人材確保のためにはいくらでも出す、という態度です。日本ではそういう意識になっていないし、労働市場もそうはなっていないので、市場原理が働かないし、給料が上がらない、ということがあると思っています。

●ダニエルさん

ストライプのユーザーの話なのですが、いい話があります。昔ながらの業種で仕事をやっている、ある大企業とストライプで連携をすることになったのですが、ストライプはAPIなので、ユーザー企業にエンジニアがいないと、つなげないんですね。SIerに頼むとすごくお金がかかる。社内に2人エンジニアがいるのですが、2人とも、保守以外の仕事をやったことなかったんです。でも、ストライプとの連携で初めて新しい分野をやってみよう、ということになって、すごく楽しくできたんです。セールスフォースクラウドは使えたので、そこでアプリを作って、デプロイして。2人とも、長年保守しかやってなかったのを、許可をもらって、一緒にいいものを作れた、ということがありました。そういう機会がもっとあればいいと思います。優秀な人材がいるわけだから。

●マイクさん

はっきり言いたいのが、シリコンバレーも日本もエンジニアの実力はあまり変わらない、ということです。これは、両方で働いた経験から、事実だと思っています。実力に差がないのになぜ差が出るのか、というと、役割自体が違う、ということだと思います。シリコンバレーのエンジニア会社では、プロジェクトマネージャーとエンジニアのハイブリッドみたいな人が力を発揮する機会が多いんです。アジャイルやXPをやっていたり、エンジニア自身が「こうやりたい!」というのを実現できる環境になっているんです。googleではエンジニア発信でGmailを作ろう、ということになったけど、日本ではそういうことがないのではないでしょうか。そういう環境が用意されていないし、会社のバリューに対してエンジニアの実力が繋がりにくくなっている。結果として、給料が上がりにくいのではないでしょうか。

●カニさん

その通りだと思います。日本のソフトウェアエンジニアで、3Kの仕事をまだやっている、という人が多いと思います。下請、下請、下請(多重下請構造)で、仕様通り仕事をやる、というイメージがあります。シリコンバレーだと、エンジニアはある意味、神様なんです。会社の一番大事なところをエンジニアが担っている。エンジニアがいるからこそ、プロダクトのフィーチャーが新しく出てきたり、パフォーマンスがよくなったりしますし、エンジニアがいろんなアイディアを出せるような機会もあるので、セールスマン以上に、会社の業績に貢献していると思います。Gmailもそうです。アイディアがどんどんエンジニアから出てくるから、お金がそこにいくんです。彼らがいてこその会社、なんです。だから、日本もどんどん内製化して、エンジニアにやらせるべきだと思います。2~3人フルスタックのエンジニアがいれば、いろんなことができちゃうんですよ。そうすれば、SIerに高いお金を出さずに、社内のエンジニアに高いお金を出すことができると思います。

5.エンジニアにとって働きやすい環境とはなにか

●カニさん

うちの会社でも、エンジニアの応募を出すと、アメリカからの応募も結構来るんです。日本は、何もしなくてもエンジニアがすごく来たい場所なんです。問題になっているのは、個人的な意見ですが、働く環境なんです。それ以外は、パーフェクト。こんな安全できれいで食べ物はおいしくて、人はやさしい国はない。問題の一つは、メリトクラシー(成果主義)ではないことだと思います。自分がいくら仕事をしても、給料は差がないので、それが嫌だという人もいます。あとは、ハイエラルキーもあるので、なかなかやりたいことができません。

逆に、日本のエンジニアがアメリカにいくときのメリットは、刺激だと思います。カフェに行くと、みんなスタートアップしようとしてるんです。コーヒーを飲みながら。その熱量がすごいんですよ。私もアメリカに行く度に、毎回刺激を受けて帰ってきてますね。みんなが、「世の中変えたい」ってチャレンジして、失敗して…の繰り返しなんだけど、その熱量があるんです。

みなさんはどう思いますか?

ということで、非常に活発な意見交換でした!いろいろな示唆に富んだ意見提起も出されましたが、みなさんはどう思いましたか?ご意見があれば、ぜひコメント欄にお寄せください。

※本稿の内容は、イベント内容を編集したものであり、「働き方を考えるITエンジニアの会」の立場や意見を代表するものではありません 。