IT業界の労働時間はどうなっている?

労働時間

残業時間が減少中!?

こんにちは。中の人「1号」です!

さて、早速ですが、今回はIT業界の労働時間の問題について、統計調査から概要を把握していきたいと思います。

まず、厚生労働省「毎月勤労統計」から。この統計によると、情報通信産業の月間総実労働時間は、1907時間で全産業の1706時間より長くなっています(厚生労働省「毎月勤労統計」平成29年度確報)。

しかし、情報通信産業の総実労働時間は、ここ数年減少傾向にあります。2014年度の月間総実労働時間は164.3時間(年間換算1961時間)でしたが、2017年度は158.9時間(年間換算1907時間)まで減少しました。

特に変化が大きいのが、所定外労働時間の減少です。2014年度は月間所定外労働時間が18.5時間ありましたが、2017年度は14.8時間にまで減少しています。所定外時間外労働が20%減少したことになります。

総務省「労働力調査」を見てみましょう。情報通信産業の週60時間以上雇用者の割合は2014年度では9.5%であり、全産業の8.4%を上回っていました。ところが、この数字は2017年度に7.5%ととなり、全産業の7.6%を下回る結果となりました。

もう少し細かく見てみましょう。週60時間以上雇用者の割合は、情報サービス業では5.8%、インターネット附随サービス業では8.3%となっています。後者のインターネット附随サービス業が全産業平均より週60時間以上雇用者の割合が多いことがわかります。なお、インターネット附随サービス業は、日本標準産業分類において「インターネットを通じて,通信及び情報サービスに関する事業を行う事業所であって,他に分類されない事業所」と分類されています。具体的には、一般ユーザーがウェブで情報検索するためのサーバーや、インターネットショッピングのサイト運営などがこれに当たります。

長時間労働がなくならない理由

これまで長時間労働が問題視されてきた情報サービス産業ですが、その問題が解消されつつあるのでしょうか。確かに、ITエンジニアからも「以前のような働き方からは変わってきた」という声がちらほら聞こえてきます。

ただ、その一方でトラブルなどが発生してしまえば、長時間残業をせざるを得ない状況に追い込まれてしまう構造は変わっていません。

厚生労働省は、業界団体と連携したIT業界の長時間労働対策事業を展開し、IT業界の長時間労働に取り組んできました(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/it/)。この中では、IT業界で長時間労働がなかなかなくならない理由として次のことを挙げています。

  • ソフトウェア開発は、複数のIT エンジニアがプロジェクト・チームで仕事を行うため、作業の進捗管理や製品の品質管理が難しく、個々人の経験やノウハウに依存する特性があります。また、企画プロセスが不十分な場合、その後の工程に影響が出て、時間外労働などが増える場合もあります。
  • 仕事に従事する場所は開発プロセスにより変わることがあり、自社の事業場だけではなく顧客先に常駐して業務にあたること(客先常駐)もあります。
  • 開発プロセスの全部もしくは一部を他のソフトウェア会社に委託(アウトソーシング)し、元請け、一次請け、二次請け等の多重下請構造になることもあります。

このように厚生労働省では、長時間労働の背景にはいずれも「関係者のコミュニケーション不足」があるとしています。思い当たる節のある人も多いかもしれません。厚生労働省は、「プロジェクトの成否はプロジェクト・マネジメントと人材の総合的な能力が鍵となります」と指摘しています。

長時間残業の背景にある労務管理

また、情報通信業界で長時間の残業が発生する理由を、これとは違った視点から分析した論文があります。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2016年11月に発表した「働き方の二極化と正社員―JILPTアンケート調査二次分析結果―」の第6章「第6章 情報通信業における長時間残業の要因とその影響」がそれです(https://www.jil.go.jp/institute/reports/2016/0185.html)。

この論文では、正社員の労働負荷と現状について調査したデータを再分析。情報通信業で残業が発生する直接的な要因について、労働者自身に聞いた結果(複数回答)、最も多い回答は「業務量が多い」で63.6%、ついで「納期にゆとりがない」が37.6%、「突発的に仕事が飛び込んでくるから」が36.3%だったことを指摘しています。

さらに、「目標値・ノルマが高い」と答えた人は、残業時間の分布において「40〜60時間未満」「60時間以上」の割合が高いことから、「情報通信産業においては、業務量が多い中で、成績や業績によって次の年の月給が変動する可能性が高い。そして、その成績や業績が、成果物の数で測られている場合に、長時間残業が発生しやすいと考えられる」と分析しています。

「目標値・ノルマが高い」こと、さらには「成果物の数」が設定されており、その目標物が高いほど、長時間残業になるというわけです。論文の執筆者である三家本里実氏は、「情報通信産業における長時間『残業』には、企業の労務管理が大きく関係している」と指摘しています。

この指摘は、情報労連の機関誌2017年3月号でご覧いただけます(『情報労連REPORT』2017年3月号「情報通信業はなぜ長時間「残業」が発生するのか データで読み解く残業の発生要因」http://ictj-report.joho.or.jp/1703/sp05.html)。

人月工数に基づく価格設定方式などが取られている場合、このような「成果物の数」によって、評価や労働時間が変わってくるという体験についても思い当たる節がある人が多いかもしれません。

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 情報労連では、現場で働くITエンジニアにヒアリングをして長時間労働の発生要因や実態などを分析しました。次回は現場の実感について見ていきたいと思います。