「過労死防止白書」の調査報告が指摘するIT産業の過労死等の要因と対策とは?

メンタルヘルス

「平成30年版過労死防止白書」

 厚生労働省が2018年10月に「平成30年版過労死防止白書」を公表しました。過労死等が多く発生しているという指摘があることから、IT産業が白書の中で重点業種・職種の一つとして、分析の対象として取り上げられました。

 分析は、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生研究所の過労死等防止調査研究センターが行いました。その報告書である「情報通信業における労災認定事案の特徴に関する研究」(リンク先の平成29年度総括・分担研究報告書に掲載)の内容を紹介します。

「SE」55件、「プログラマー」5件の労災事案を分析

 同報告書では、「SE」55件(脳・心臓疾患事案と精神障害事案の合計)と「プログラマー」5件(同)の事案を対象に分析が行われました。内訳は脳・心臓疾患事案は「SE」20件、「プログラマー」2件、精神障害事案は「SE」35件、「プログラマー」3件となっています。

30~40代の若年層が目立つ

 「SE」「プログラマー」の事案を年代別に分析すると、脳・心臓疾患事案では、「40~49歳」が14件・63.6%で、「30~39歳」が5件・22.7%でした。精神障害事案では「30~39歳」が16件・42.1%、「40~49歳」が11件・28.9%でした。

 このように、脳・心臓疾患事案、精神障害事案ともに30~40代と若年層での事案が目立っていることがわかります。

労災の認定要因となった背景とは?

 労災の認定要因を見ると、脳・心臓疾患事案では、すべての事案で長期間の過重業務が認定されていました。発症前の1カ月の時間外労働の平均は88.2時間、発症前の3カ月の時間外労働の平均は83.4時間でした。

 長時間労働と関連する要因として考えられる負荷業務についても分析があり、脳・心臓疾患事案では、「厳しい納期」(8件、36.4%)が最も多く、「顧客対応」(4件、18.2%)、「急な仕様変更」(2件、9.1%)と続いています。

 精神障害事案の労災の認定要因を見ると、「特別な出来事」では、「恒常的な長時間労働」が20件(52.6%)に及んでおり、「極度の長時間労働」も8件(21.1%)ありました。

 また、「具体的出来事」では、「仕事内容・仕事の量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が36.8%で、「1カ月に80 時間以上の時間外労働を行った」(10.5%)、「2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った」(10.5%)が続きました。

「時間外労働の削減が求められる」と報告書

 こうした調査結果をもとに報告書は「情報通信業におけるSEとプログラマーについては、長時間に及ぶ時間外労働時間の削減が求められ労働時間管理の重要性が示唆された」と分析しています。また、「少なくとも厳しい納期、顧客対応、急な仕様変更が長時間労働の要因として示唆された」として次の6つの対策を示しています。

1)発注者とも協議した上で、過重労働とならないように余裕のある納期を設定する

2)業務の進捗状況を適切に把握し、急な仕様変更などによって業務量の増大が見込まれるときは納期の延長や増員などの措置を講じる

3)急な仕様変更が起こらないように、設計段階で仕様の妥当性を確認する

4)トラブル処理作業は、できる限り所定労働時間内に実施できるようにする。特に、深夜労働や休日労働はやむを得ない場合を除き避ける

5)最新の情報通信技術なども活用し、急な仕様変更やトラブル処理作業が少なくなる設計や作業管理の高度化を進める

6)拘束時間の長い勤務、不規則な勤務、出張、職種や職務の変更等の勤務環境など、労働者の勤務実態についても事業場で適切に把握し管理することである

働く人の健康を守る観点から「働き方改革」を

 過労死等防止法の第1条にあるように、「仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会」を実現することが大切です。働き過ぎで人がなくなる過労死等はあってはなりません。

 この報告書は、IT産業における過労死等を防止するポイントは、時間外労働の削減にあると指摘しています。「働き方改革」を進める上で、働く人の健康を守るという観点を欠かすことはできません。