ITエンジニアはどのようにメンタル不調に追い込まれるのか

メンタルヘルス

メンタル不調による休業者が多いIT業界

厚生労働省「労働安全衛生に関する調査(2018年)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した従業員は、常時従業員全体の0.4%、メンタル不調により退職した従業員は、0.3%。産業別にみると、1ヵ月以上休業した労働者は、情報通信業が1.2%と、最も高い割合になっています。

問題を抱え込み、ひとり追い詰められるITエンジニア

納期に追い詰められる。仕事量が多くて残業や休日出勤が当たり前。技術の急速な変化についていけないというプレッシャー。ITエンジニアを取り巻くストレッサーにはさまざまなものがありますが、実際に何が原因で、どのようにメンタル不調に陥っていくのか。この点を調査した興味深い論文を紹介したいと思います。

「IT産業で働くシステムエンジニアがメンタルヘルス不調をきっかけに休職に至るまでのプロセス」 順天堂大学医療看護学部 医療看護研究 第14巻1号(2017)

この調査では、メンタルヘルス疾患で1ヵ月以上休職し、復職をしたITエンジニア7名を対象に、メンタル不調のきっかけや休職に至ったプロセスについて明らかにしています。

メンタル不調のきっかけとなった時期は、いずれのITエンジニアも客先常駐の環境下にあったときで、メンタル不調のきっかけとして、以下の5つの要因を抽出しています。

  • 客先常駐の中タイムリーに相談しづらい関係性
  • 新たな業務に戸惑いストレスを抱える
  • 関係性の中で業務をうまく遂行できない
  • 受け止めてもらえない不満や苛立ち
  • 自身の強固な信念にこだわり辛くても頑張る

論文では、これら5つの要因が複雑に絡み合いながら、「チームの中で《繋がっているが孤独な関係性》を形成しストレスを高めている」と導き出しています。 顧客先で初対面のメンバーと机をならべ、納期に追われながら仕事をこなしている状況であれば、何かあっても誰にも相談できない、あるいは、わからないことを聞きたくても、相談しづらい…という環境下におかれることもあります。上司に相談したくても、現場にいない上司に現場の状況がうまく伝わるのか、受け止めてもらえるのか、という不安だってあります。そんな中、問題を抱え込んだITエンジニアたちは、作業の遅れを取り戻そうと一人で頑張り、それでも解決策を見いだせない自分を責め、休職に追い込まれていきます。

問題を抱え込まないためにどうすればいいか

客先常駐では、プロジェクト単位でチームが組まれますが、顧客先で異なる会社の社員と共同作業することになるわけで、なかなか気軽に相談できる相手とはなりにくく、自分の抱える悩みをタイムリーに相談しにくい環境下に置かれます。それでは、どのようにすればいいのでしょうか。論文では、4つの対策に触れています。

  • 本人が問題に直面した際、解決に向けた考え方や行動がとれるようセルフケア研修を実践すること
  • 上司が部下に歩調を合わせ本音が話せる関係性を作ること
  • 孤立させないための連帯感や助け合いの職場風土を作ること
  • 上司や周囲の早期介入や対応を行うこと

そもそも、企業は、労働契約上、従業員に対する安全配慮義務を負っています。いくら部下一人ひとりの細部にまで目が行き届きにくいといえども、業務に起因して労働者が生命、身体、心身の健康等を脅かされるようなことがないようにしなくてはなりません。 上記で指摘されているように、客先常駐者にはセルフケア研修など、本人が自覚していないストレスを早期に気づき、「何かあったらこの人に相談すればよい」と思えるような適切な相談先との結びつけをすることも、有効な予防策の一つでしょう。

体制づくり、ルールづくりが重要

メンバーが一人で問題を抱え込むことがないよう、周囲が早め早めに気づく体制づくりはもちろんのこと、何か異変を感じたら、上司自身が忙しくても、時間を割き、早めに介入し、必要に応じて専門家や適切な治療につなげていくためには、職場の環境整備、ルールづくりが重要です。

いくら「上司の早めの介入」や「職場風土づくり」が重要といっても、重要性を理解しているだけではきちんと機能しません。体制の整備や何か起きたときのフローの見える化など、現実的なルールをしっかり規定し、それを客先常駐者も知っている状況にすることが、実効性を持たせるために必要不可欠です。