2018年9月、経済産業省がデジタル技術を駆使して企業価値の創出をめざす「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に関する調査報告書「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」(以下、「DXレポート」)を発表しました。
DXとは?
近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉がよく聞かれるようになりました。デジタルトランスフォーメーションについて、「DXレポート」では次のように説明しています。
DXに関しては多くの論文や報告書等でも解説されているが、中でも、IT専門調査会社のIDC Japan株式会社は、DXを次のように定義している。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
~『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』から引用
IoT、AI、ビッグデータ、クラウドなど、新たなデジタル技術の活用の可能性が広がる中、それらを活用して、どのようにビジネスを変革していくか、といった経営戦略を打ち立てていくことが求められています。
DXが進まない理由は既存システムの「レガシーシステム化」
その一方で、レポートでは、DXの実行しようにも、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した既存のシステムが足かせになり、自社のデジタル化がなかなか進まない、ということを課題として指摘しています。
ユーザー企業は、自社のITシステムの全体像を正確に把握できていないので、なかなかシステム刷新に踏み出せていないわけです。ユーザー企業には、「わが社もDXを!」「うちもAIを使って何かできないか?」という検討の前に、既存システムの全体像の見える化や廃棄できるものの仕分けを通じ、新たなデジタル技術に対応できる形に見直していくことが求められています。
IT関連費用の8割が既存システムの保守運用に充てられている
JUASの「企業IT動向調査報告書2017」では、IT関連予算の8割が現行ビジネスの維持・運営に割り当てられているとの結果が出ています。
(出典)一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業 IT 動向調査報告書 2017」より
IT予算が長期的な保守・運用費に充てられれば、新たな付加価値を生み出すためのシステムに、資金・人材を振り向けられないということを意味します。そのためにも、まずは既存システムの見直しが重要、ということが謳われています。これでは、既存システムのメンテナンスに興味のない若い人材や、新たなデジタル技術を駆使する人材を確保・維持することにはつながらない・・・。そんな状況への危機感が読み取れます。
このままいけば2025年まで以降の経済損失は最大12兆円(年間)と予測
このまま日本企業がブラックボックス化した基幹システムを放置してしまった場合、2025年以降には、年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある、と報告書では警鐘を鳴らしています。また、2025年には、21年以上稼働している基幹系システムの割合が6割を占めるとも予測しており、「25年までにシステム刷新を集中的に推進する必要がある」としています。
DXを実行していくためには、企業の持つデータを全社最適化し、最大限活用していくことが鍵となります。DX実現に向け、まずは既存システムを対応できる形へと見直していくことが不可欠として、経済産業省では、既存システムの「『見える化』指標、診断スキームの構築」を提案するとともに、「DX 推進システムガイドライン」(2018年12月)を策定し、DXの実現やその基盤となるITシステムの構築を行っていく上で経営者が抑えるべき事項をまとめています。
「システム受託産業」から「価値創造産業」へ
事業部門ごとに構築されたシステム、過剰なカスタマイズ、複雑化、ブラックボックス化、という課題感に共感するITエンジニアのみなさんも多いのではないでしょうか。IT業界の人材不足感はどんどん高まっていますが、その不足というのも、ほとんどが既存システムの維持にかけられているというのが実態ではないかと推察されます。この状況では、最先端のデジタル分野にスキルシフトしていこうとしても、新たなスキルを身に着けるための育成機会にも恵まれません。また、この企業では新たな仕事ができないと思えば、人材流出にもつながりかねないでしょう。
情報サービス産業は、「システム受託産業」から「価値創造産業」への転換が叫ばれて久しいですが、企業も個人も、この危機感を正しく受けとめなくてはならないと思います。ITエンジニアとして、IT企業として、この変化の激しい時代に生き残るにはどうすればよいか。2025年を待たずして、考えていく必要があります。